THE BEAT GARDEN one man live at Zepp DiverCityTOKYO「good error」オフィシャルレポート

2024.04.18

 結成12年にしてついにたどり着いた場所。もしかしたらもっと手っ取り早くここに至る道筋もあったのかもしれない。なんらかの手段を要領よく講じればずっと容易に立てていたのかもしれない。けれど、彼らはそれを選ばなかった。どんなに遠回りしようとも彼ら自身の足を動かし、一歩一歩を踏みしめながら自分たちだけの道を切り拓いてこの場所までやって来たのだ。そんなTHE BEAT GARDENのまさしく晴れの舞台であり、次なる夢へのとば口とも呼ぶべき場所が東京都・Zepp DiverCity(TOKYO)だ。THE BEAT GARDENにとって初のZepp公演であり、彼ら史上最大規模のライブとなるステージに“good error”というなんとも彼ららしいタイトルを掲げ、いよいよ迎えた本番、2024年4月13日。3人の新たなスタートを寿ぐにも実にふさわしく春めいた陽気にも恵まれたこの日、THE BEAT GARDENはその歴史に何を刻むのだろうか。

 記念すべき大舞台に挑む3人の勇姿を見届けようと詰めかけたオーディエンスの凄まじい熱量で場内の空気は開演前からすでにはち切れそうなほど。チケットは見事にソールドアウト、ドラマの主題歌などを通じて最近THE BEAT GARDENを知り初めて足を運んだという観客も少なくないのだろう、充満する熱気に混じったそわそわとした期待感が客席の祝祭ムードをいっそう掻き立てているようにも感じられる。温かなざわめきに包まれた空間、バックステージに控える彼らも早くここに出たいとうずうずしているに違いない。

 BGMにMY CHEMICAL ROMANCEの「Welcome To the Black Parade」が流れだすと、何かを察知したように、それまで着席していたオーディエンスがやにわに立ち上がり始めた。ここのところTHE BEAT GARDENのライブではこの曲が開演を知らせる合図となっているのだ。ほどなくして場内は暗転、ステージを覆っていた黒い幕がゆっくりと開き、ハードエッジなSEが鳴り渡ると同時に幾筋ものライトが客席を照らす。

「いけますか、東京!」

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 盛大な拍手と歓声に沸き立つなか登場したTHE BEAT GARDEN、気合いを全身から立ち上らせてUが叫ぶ。そのまま間髪入れず“Oh マリッジ”と歌い出すや、爆発的に沸騰する場内。ライブのオープナーとなったのは最上級にスイートでアッパーなラブソング「マリッジソング」だ。のっけからステージを大きく行き交う3人のダイナミックな動きにサポートDJ・kowta2のスクラッチプレイも光り、オーディエンスの昂揚は1曲目にして早くも最初のピークに達した。しかしそれはあくまで“最初の”。2曲目の「Never End」——彼らのメジャーデビュー曲であり、込められたメッセージも含めてライブでは本編ラスト、あるいはアンコールの最後に歌われることも多い曲なのだが、まさかこのタイミングでもう!?という驚きも加わって、さらに興奮を押し上げる。それは続く「花火」も然り。もどかしくも甘酸っぱい、ある意味、もっともTHE BEAT GARDENらしさが溢れた片思いソングにしてライブでも定番の人気曲を出し惜しみすることなく、いきなり序盤から披露しようとは。こんなの、盛り上がらずにいるほうが難しいではないか。

「ついに来ました! Zepp DiverCity(TOKYO)へようこそ!」

 満面の笑顔を浮かべ、グループを代表して改めて挨拶をするUにやんやの大喝采が起こる。

「僕ら、初めて東京でやったライブが六本木のライブハウスのオープニングアクトで、お客さんは0人でした。今日は満員御礼、ソールドアウトです。ありがとうございます! 今まででいちばん大きな会場だからこそ、一人ひとりに精一杯、歌をお届けしたいと思っています。初めましての人もみんな、安心して暴れていってください。じゃあ、もう一回、始めようか!」

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 力強く宣言し、「Start Over」へ。ドラマ『六本木クラス』の挿入歌として大きな話題を呼んだ、韓国のシンガー・Gahoのカバー曲であり、今やTHE BEAT GARDENの代表曲のひとつとして広く認知されているこの曲に、客席いっぱいハンドクラップの嵐が渦巻く。サビで歌と掛け合うように上がる“ウォ!”の大合唱もひときわ熱く、歌ってはオーディエンスに向けてマイクを突き出す3人の表情がまたこのうえなく嬉しげなのもいい。

 本当にこれがまだ序盤戦なのかと訝しみたくなるほどにヒートアップするZepp DiverCity(TOKYO)にひととき、涼やかな風をもたらしたのはREIが弾くキーボードによるインタールードだ。美しくもエモーショナルな調べにうっとりと耳を傾けたのも束の間、続けてその指先が「初めて恋をするように」のイントロを奏で始めるや、場内が再度、歓喜にどよめいた。キーボードをプレイしながら歌うREI、UもMASATOもその音色に身を委ねるようにして心地良く歌声を響かせて、会場を丸ごと包み込むかのよう。一転、ファンキーかつ横ノリのグルーブで場内を一瞬にしてダンスホールに変えた「サイドディッシュ」、「バラードをゆったり聴いてください」と静かに告げて歌われた「遠距離恋愛」の切実で繊細な心模様がいつにも増して沁み入るのはこの広い空間の隅々、最後列の一人ひとりにまでもれなく想いを手渡そうと懸命な3人の気概が、彼らの発する一音一語に乗って今まさしく届けられているからなのだろう。

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「今日のタイトルは“good error”といいまして……今までたくさん失敗してきた自分たちなんですけど、それでもいいことはあるってみんなに思わせてもらっているんです。なので、その想いを込めて付けました。今日もすでにそんな気持ちにさせてもらってます。ありがとう!」

 タイトルの意味に絡めて感謝を口にするMASATO。REIはこの日のライブが前回のツアーから約半年ぶりのワンマンであることを告げ、「改めて自分はTHE BEAT GARDENとみんなで作るライブが好きなんだなと思えたし、みんなの存在の大切さをより感じた半年間でした。上手く言えないけど、今日は来てくれて本当に嬉しい。最後まで楽しんでいってください」と真摯な気持ちを伝える。もちろんメンバー同士、途中でツッコミを入れ合ったり、あちこちから飛んでくる歓声のなかに野太い男性の声があると気づくや「絶対、野球部やろ」と声をはずませるなど、オーディエンスも巻き込んだわちゃわちゃしたやり取りも健在。ライブの後は毎回、訪れてくれた関係者たちからフロアの盛り上がりがものすごいという感想をもらっていると明かし、「身内を褒めてもらってるみたいですごく嬉しい。今日も僕らだけで“楽しい”を投げるには限界があるので、“今、受け取ったぞ”と思ったら思いっきり投げ返してください」とUも呼びかけていたが、ファンもTHE BEAT GARDENの一員だと本気で信じ、ひとりたりとも置いてきぼりにしないその姿勢こそが彼らをこのステージに導いたのだと強く実感する。

「今日はむき出しでいくからね。THE BEAT GARDENのライブはみんなで歌う曲がすごく多くて、一緒に歌ってくれると何十倍も楽しくなるんです。間違っても全然いいよ。俺らだって軽やかに生きてそうに見えるかもしれないけど実はすごい人の目とか気にしちゃってて。でもライブはそんな場所じゃないから、お互いに出し合ってぶつけ合っていきましょう」

 Uの言葉に励まされるように「Snow White Girl」ではいちだんと客席のクラップが大きく鳴り渡り、3人と一緒になって口ずさむ声もあちこちから聴こえる。回るミラーボールが空間に散りばめる光の一粒一粒が晴れた日に降る雪のまぶしさを彷彿とさせてとても綺麗だ。しかし、そうした余韻に浸る隙も与えず、この日いちばんとも呼びたい刮目の場面が訪れた。刹那、暗転したステージでkowta2のDJプレイがスタート。するとエレキギターを肩に掛けたMASATOが現れ、アグレッシブに弦をかき鳴らし始めたのだ。さらにREIもキーボードで参戦。思いもよらぬスペシャルなセッションにオーディエンスの黄色い悲鳴が轟く。ハード&クールなロックセッションから、なだれ込んだのは「High Again」、THE BEAT GARDEN独自の音楽スタイルとして初期から掲げ続けているEDR(エレクトリック・ダンス・ロック)の最新型がこれでもかとばかりに場内を揺らし、飛び交うレーザー光線のもとZepp DiverCity(TOKYO)はたちまち熱狂の坩堝と化した。

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 “うるさいな ほんとに”というポップスでは滅多にないだろう歌い出しから始まる「ぬくもり」。おそらくこの歌の主人公と同じく上手くいかない現実にいら立ち、ふてくされていた時期が3人にもあったのだろう。それでも彼らを諦めず、ずっと支え続けてくれたファンやスタッフ、大切な人たちと今日を迎えられた喜びが躍動的な歌唱に宿って聴く者の胸を打つ。ネガティブな感情も隠さずさらけ出し、音楽に昇華できる強さは間違いなくTHE BEAT GARDENの武器だ。どれだけグループのフェーズが上ろうとも、常に等身大の彼らだから、その音楽がこんなにも刺さる。愛をテーマに真正面から対峙した最新曲「present」もそう。もしも歌詞を綴ったUをはじめ、その想いを受け取って歌に乗せたREI、MASATOが正解のない愛というものに思い悩み、考え抜いたことがなければ、この曲は人の心を揺らすこともつかむこともなかっただろう。ドラマ『アイのない恋人たち』の主題歌として書き下ろした曲ではあるものの、ちゃんと自分のなかに探して見つけられた歌だと、この日披露する直前にUは語り、「あなたの思い出や今の想いに歌わせてください」と言った。歌に息づく彼らのリアルな心情は、それを受け取る私たちにも静かに寄り添ってくれる。

 とりわけ白眉だったのは「present」の直後に披露されたアカペラだ。シンと静まった空間に、“今日も今までも/目の前の君が/聴いてくれたらもうそれでよかった”とUの、続けて“明日も明後日も/この声が届かない場所でも/君が元気でいてくれたら”と3人の歌声が響き渡る。最初はキョトンとした様子の観客の表情が得心したそれに変わるまでにほとんど時間はかからなかった。なぜなら彼らが歌ったその一節はTHE BEAT GARDENがファンに捧げた大切な曲「みんなへ」のサビのフレーズだからだ。オリジナルよりテンポを落として歌い上げられた3人のハーモニーが涙腺を直撃する。そこから、これもまたファンへの想いが存分に込められた「ラブレター」へと続くのだからもうたまらない。

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「10年以上前に結成して、路上ライブを始めたときから絶対いつかZeppにいけると信じていました。でも、絶対いけるって言い続けてないとステージにも立てなくなりそうなぐらい、本当にいろんなことがありました。ものすごい才能があるわけじゃないし、人生変えちゃうような歌詞とか、この先も見つけられるかわかりません。でも出会って10年経ってるのに今もこんなに音を合わせて楽しいメンバーと出会えるほうがきっと難しい。何かが少しでもズレていたら一瞬も同じ時間を過ごせなかったかもしれないあなたと出会うほうがずっとすごいことだと思います。見つけてくれて、今日も来てくれて本当にありがとう。不器用でゆっくりかもしれないけど、ゆっくりなぶん、これからもちゃんとあなたの目を見て歌っていきます」

 客席にUがまっすぐ語りかけ、突入した終盤戦。「光」ではUのパートもオフマイクで歌うMASATOの、曲に込められた過去とそれを歌っている今の両方をギュッと噛み締めているような表情がなんと印象的だったことか。まだまだ踊り足りないだろ?とオーディエンスを挑発する「B.E.T」でのダイナミックなパフォーマンス、特にステージ中央に設置されたお立ち台に腰掛けて体を揺らすREIとその背中を守るように両サイドを固めるUとMASATOというBメロでのフォーメーションから、サビで一気にはじけ、ステージ狭しと激しくその身を跳ね躍らせる姿は観る者を心底シビれさせた。3人と客席が思う存分歌声を重ねて大合唱した「本当の声で」、本編ラストは「Sky Drive」が締めくくった。THE BEAT GARDENがインディーズ時代にリリースした1stミニアルバム『Air』の1曲目を飾る、今なお色褪せることのない最強のEDRチューンが狂騒を煽りに煽る。

 当然ながら、これで終わるTHE BEAT GARDENではない。やまないアンコールの声にすぐさま応えてステージに再登場、しかも、ここにきて「Don't think, feel.」を投下して冷めやらぬ興奮の火をまたも燃え上がらせるという剛腕ぶりを発揮したかと思えば、彼らの歴史と絆を歌にした「エピソード」で再びオーディエンスの涙腺を緩ませもする。

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 振り返るにこの日のセットリストはアッパーチューンと聴かせるバラード、興奮と感動が交互に押し寄せてアップダウンの激しい、まるでジェットコースターみたいなメニューだったと言っていいのではないだろうか。それは彼らの歩んできた道のりにも似て、さらに言えばどの曲もすべてが彼らそのものだから、とにかく揺さぶられまくる。だが、その一方で不思議なくらい、この大舞台を当たり前のものとして観ている筆者もいた。たしかに現時点では最大規模だろうが、ここがゴールではけっしてない。もっともっと広くて大きい世界がTHE BEAT GARDENを待っているに違いないからだ。何より誰よりそう確信しているのはきっと彼ら自身で、それはこの日を目撃したあなたにも伝わったはずだろう。MCで微かに声を震わせる瞬間はあったものの、最後まで3人が涙を見せることがほぼなかったのは、きっとそういうことなのだと思う。

 オーラスに放たれたのは「心音」だった。最新アルバム『Bell』のリードトラックであり、昨年全国20公演を回ったツアー“THE BEAT GARDEN ONE MAN LIVE TOUR 「Bells.」”において強靭に育て上げられた、今のTHE BEAT GARDENをありありと映し出した新たなこのアンセムに朗々とした彼らの未来を想像する。ここで歌われている通り、未来は3人の胸の奥で鳴り止まない心音を聞き逃すことなく、彼らを迎えに来るだろう。そのときにはどうかあなたもそこにいてほしい。

「いつかよりもっと近い将来、このZeppがいい意味ですげぇ小さかったなって思ってもらえる俺らに絶対になるので、これからもよろしくお願いします!」

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 最後の最後にUはマイクを通さない生の声ではっきりとそう誓った。隣で笑うREIとMASATOの煌々とした瞳が忘れられない。明るく晴れやかな大団円は、ここから始まるTHE BEAT GARDENの新しい道のりを照らすかけがえのない灯りとなるのだ、きっと。


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文・本間夕子