「in your tour 2022」ツアーファイナル公演 オフィシャルライブレポート

2022.08.02



 全国で待っていてくれる大切な人たちと過ごす最高のひとときのために毎週末、車を走らせては全国を旅したこの3ヵ月間は彼らをまた一回りも二回りも大きく強く成長させた。新体制になって初めてのツアーであり、全17会場とグループ史上最大規模をマークしたTHE BEAT GARDENのワンマンツアー“in your tour 2022”、最終日を迎えた7月24日、東京・LIQUIDROOMのステージには観る者にそうはっきりと確信させるしなやかさとたくましさが漲っていた。

 まだまだコロナ禍の収束が見通せない日々は続いているものの、音楽を取り巻く状況には少しずつ明るさが戻りつつある昨今。ライブにおいても一時は50%とされていた収容人数制限が緩和されたことで、今ツアーでは実に約2年半ぶりに1日につき1公演をフルサイズで行うことが叶った。しかも全会場にてソールドアウトを達成、LIQUIDROOMももちろん例外ではなく、未だオーディエンスにはマスクの着用および歓声などの発声禁止が求められてはいたものの、フロアに充満する熱気は開場中からすでに尋常ではない。

 時計が開演時刻の17時を回ると同時にBGMがぐっとボリュームを上げ、そうして客電とともに静かにフェイドアウトした。これぞTHE BEAT GARDENのライブだと湧き立つ心をさらに煽るかのように鳴り渡るSE。ステージを満たすオレンジ色のライトが客席をも照らすと興奮は一気に膨れ上がった。たくさんのクラップが迎えるなか、ステージへと真っ先に飛び出してきたのはREIだ。サポートDJのkowta2、MASATO、Uが後に続き、それぞれがポジションにつくや、Uの朗々とした歌声がいよいよたどり着いたツアーファイナルの幕を切って落とす。1曲目は「マリッジソング」。アッパーにしてブライトな、オープニングを飾るにもっともふさわしい楽曲の一つだが、生で聴く醍醐味はそれだけじゃないとばかりに足元を揺らす四つ打ちのリズム、目をみはるほどにアグレッシブなその太い重低音には驚かされてしまった。トラックメイクを一手に担うREIの手腕は今ツアーでも存分発揮されているらしく、しかもTHE BEAT GARDEN随一のポップ&キャッチーチューンからいきなり、これほどにも大胆なサウンドアプローチを仕掛けてこようとは。駆けつけてくれたBeemerをのっけから進化を遂げたTHE BEAT GARDENワールドへと連れ去りたい、そんな意気込みがひしひしと伝わってくるようだ。

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「“in your tour”、いこうか!」

 Uの雄叫び一発、なだれ込んだのは「Don’t think, feel.」だった。不敵なギターリフの音色に突き動かされたように波打つフロア、ステージの3人も立ち位置を入れ替わり立ち替わり、ひときわイキイキと動き回っては切れ味鋭いパフォーマンスで熱狂に拍車をかける。例えば、揃ってkowta2のほうを向いたかと思えば次の瞬間にはまた客席へと向き直る、そのタイミングもぴったりで、メリハリの利いた身のこなしが観ていてなんとも気持ちいいのだ。続く「花火」に滲んだ切なくも爽やかな情緒感、片恋のもどかしさを宿した彼らのハーモニーも然り。曲の後半、MASATOとREIが向き合って“僕には”と声を重ね、Uが“君しか”と想いを引き継いで、さらに“いないから”と独りごちるようにささやく絶妙の連携にはいつだって胸が疼いてやまないが、やはり歌の背景とリンクした夏という季節にこそその威力は最大級に発揮される気がする。加えて、ここまで16公演歌い続けてきたことも要因だろう、甘酸っぱさにより磨きがかかっているからたまらない。

 また、THE BEAT GARDENの根幹を成すEDR、すなわちエレクトリック・ダンス・ロックをダイレクトに体現する「answer」「JUNGLE GAME」「B.E.T」、これら3曲をシームレスに連ねた実に扇情的な構成と、今の彼らを反映してブラッシュアップされたトラック、いっそうの色気とタフネスを兼ね備えた歌声にも3人のアップデートが窺い知れた。自由奔放に暴れ倒しているようで、魅せるべきポイントはしっかりと押さえた安定感のあるフォーメーション。全身全霊で目の前のステージに挑むスタイル、不器用なくらいに誠実にオーディエンスに対峙する姿勢は相変わらずで、けれど、いい意味での余裕がある。彼らがここ、LIQUIDROOMのステージに立つのはこの日で3回目で、だからこれまでとの差異がより顕著に感じられるのだろうか。実は登場の瞬間から思っていたことだが、控えめに言っても見違えた。彼らが身に纏い、そして放っている“気”がもうまるで違う。誤解を恐れずに書くならば、プロフェッショナルとしての次元がぐんと上がった、そんな印象を抱かずにいられないほどにその一挙手一投足に惹きつけられてしまう。なかでも「B.E.T」は前半戦のハイライトと呼んでいいだろう。ドラスティックなロックサウンドとダンサブルなビート感から生まれる無二のグルーブ、三層の歌声が絡み合うサビのカタルシスといったらこの上ない。勢い余ってか、Uがステージからフロアに飛び降り、Beemerと同じ目の高さで歌い上げる興奮の一幕もあり、場内の熱は上昇の一途をたどるばかり。この3曲がとことんEDRに振り切れていたからこそ、「ROMANCE」に息づく80年代90年代の軽妙なトレンディ感が際立ってことさら新鮮に響いた。

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「それにしても暑い! でも、いいことだよね、熱くなれるって。今日は17公演目と言うことで、ここまで来たからには思い残すことなくお互いに全力で楽しめたらなと思ってます」

 このMCの間に水を飲んでね、具合悪い人は遠慮なく周りの仲間やスタッフに言ってねとヒートアップした客席を気遣いつつ、改めてそう挨拶するU。続いてREIが自己紹介として明かしたのは一昨年に購入してから毎晩つけている10年日記について。REIによれば去年の今日は“踏んだり蹴ったりな1日だった。そのぶん来年の今日はいいことがあるかも”と書かれていたのだそう。「なので予言を実現したいと思います!」と宣言するREIに拍手喝采が起こる。MASATOは「このご時世で1公演も落とさずにここまで走ってこれたのは奇跡だと思ってます。一緒に走ってくれたみんなにも拍手だよ、本当に」とツアーの完走を目前にした心からの感謝を告げると「今日が終わったあと、みんなが“また次も絶対に行こう!”って思うような余韻を残すライブをするから」と約束。kowta2も交えた4人のやり取りも楽しく、そうしてライブは和気あいあいとしたムードを保ったまま「サイドディッシュ」に突入した。前半戦のクールにキメたテンションから一転、横ノリのグルーブに身を任せる開放感もまた良し。ステージとフロアが一緒になって踊る一体感、締めに発したMASATOの「ナイスポテト!」が全員を極上の笑顔にする。

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 「次は自分たちの間でもどんどん意味が大きくなっていっている曲です。相手がどう思ってるとか、自分さえもわからないときがあるじゃない? でも、この曲は大事な人が目の前にいてくれるうちに大事だって言っておかなきゃいけないと自分自身にも思わせてくれる。あなたの大切な人を思い浮かべて聴いてもらえたら嬉しいです」と語りかけて歌われた「遠距離恋愛」。そして「横顔」「それなのにねぇなんで?」とライブは聴かせるモードへと切り替わり、いよいよ新曲「Start Over」が初披露された。この日の彼らに感じた格段の進化、そのもっとも大きな要因となっているのは間違いなくこの曲の存在だろう。日本中を夢中にさせた韓国の大ヒットドラマ『梨泰院クラス』がこの7月、『六本木クラス』として日本オリジナル版にリメイクされて放送されていることは周知の通り。さらには本家『梨泰院クラス』のテーマ曲である「START」の日本語カバーが挿入歌であること、それを担当しているのがTHE BEAT GARDENであり、その曲が「Start Over」だということも本稿をお読みいただいているあなたならすでにご存じだと思う。大注目ドラマの挿入歌を担うこと、アジア圏を中心に大ヒットを遂げている楽曲を日本語カバーしてリリースするということ、それがどれほどに得難いチャンスであることか。この日から7日後の8月1日には結成10周年の節目を迎えたTHE BEAT GARDEN。けっして平坦な一本道ではなかっただろう10年間、それでも挫けず、ひたすらに前を向いて一歩ずつ着実に進み続けてきた3人についに訪れた特大の好機は、同時に本当の意味で彼らに腹を括らせもしたはずだ。生半可な覚悟では背負えない期待とプレッシャーに敢然と立ち向かい、持てるすべてを注いで臨んだ「Start Over」。Beemerに直接この曲を届けられる瞬間を彼らがどれだけ待ち侘びていたかも想像に難くない。

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「夢や叶えたいことを追いかけてると、楽しいとか幸せとか、そういうことよりも、苦しいとか怖いとか、世間知らずな俺らでも感じちゃうぐらい不安なことのほうが多くて。これはドラマの劇中歌だけど、自分たちの物語を、自分たちの想いを、歌ってるんだって心から思わせてくれて奮い立たせてくれる、そんな歌です」

 そう言ってUは力強くタイトルコール、盛大な拍手ごとオーディエンスを包み込んでほとばしったのは目もくらむほどに眩しい、希望そのものだった。ファイナルならではの演出としてこの日、彼らの背後には10本のLED菅が並び、曲に合わせてさまざまな光を放ってはステージを彩っていたのだが、この曲では赤、オレンジ、黄色と下から上に向かってグラデーションを描いて発光。夜明けの空に昇る太陽のイメージが見事に楽曲にシンクロして、とても美しい。一語一句さえ手渡し損ねることのないようにと大切に、丁寧に、紡がれる歌のなんと端正で、それでいてパワフルなことか。ボーカルグループとして彼らは今、たしかに次なるフェーズ、さらなる高みに向かいつつある。頼もしい予感、いや、実感に心が躍った。

 大志を抱いて上京したものの、上手くいかない現実に打ちのめされそうになった日々をモチーフにして綴られた「光」、そんな自分たちを見つけ出し、ここまで支えてきてくれたBeemerへの親愛を歌に込めた「みんなへ」、何度負けても生きることを選ぶと誓う「スタートボタン」、等身大の自分を認め、夢を目指す枯れない想いを本音で叫ぶ「本当の声で」——後半戦に畳み掛けた4曲はTHE BEAT GARDENが歩んできた10年間そのものを表した選曲だと言えるかもしれない。大阪の専門学校で出会い、あてもないのに結成と同時に上京した若さゆえの無敵感と無謀、そこからの波瀾万丈と紆余曲折の道のりで行き合ったかけがえのない人たちとの出会い、一方で、行き場をなくし鬱屈した感情さえも音楽を生み出す原動力にして今日まで突き進んできた彼ら。そんな今なお色褪せない音楽への情熱は本編ラスト「Sky Drive」に昇華された。飛び交うレーザー光線、LED管も目まぐるしく光を瞬かせ、U、REI、MASATOの体と歌声はどこまでも伸びやかに躍動する。

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 天井知らずの昂揚、消えない余韻。止まない拍手が彼らを再びステージに呼び戻した。「Everglow」から始まったアンコールは全部で3曲。特筆すべきは2曲目に披露された「エピソード」だろう。「まだ事務所に入る前の、ボロボロだけど大好きな思い出の曲。友達の曲を」とUが前置きしてこの歌が3人の唇からこぼれ出した途端、涙腺はやむなく決壊した。思えばほぼ1年前、2021年8月7日のこの場所で聴いて以来の「エピソード」だ。Uの言う“友達”がその日を限りにTHE BEAT GARDENを卒業したDJ、SATORUを指していることは明言されずとも、きっとここにいる全員がわかっているはずで、だから正直なところ、こんなにも早くこの曲が再び歌われるとは予想していなかった。心の準備もしていない。だが、ここで歌われた「エピソード」は不思議なくらい、腑に落ちた。素直に耳に馴染んで、清々しく胸いっぱいに広がった。湿っぽさを微塵も感じなかったのは、あれから1年、進む道は違っても3人の心の中にはずっとSATORUがいたことが、彼らのやさしくも凛とした歌声からありありと伝わってきたからだ。「Start Over」がもたらした覚悟、結成10周年というタイミングも作用しただろう。SATORUと過ごしてきた歴史は今も3人とともにあり、それはこの先も変わらない。そう思えたことが嬉しくて、泣けた。

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 オーラスはやはり「Never End」。ここが旅の終点ではなく次なるスタートラインだとするならば、なおのことこの曲でなくては締め括れないだろう。THE BEAT GARDENの原点と終わらない未来とを同時に照らす、彼らのデビュー曲にして不動の代表曲。彼らが“この道は続いていく”と歌い続ける限り、未来も続く。「ただ続けたいという気持ちだけで続けられるほど甘くないし、自分だけの意志で続けられるほど強くもない俺らが、歌っててよかった、まだ続けていてよかったって、そう思える未来をくれたのはあなたです。どこかで僕らの音楽に出会ってくれて、必要としてくれて、選んでくれたあなたなんです。本当にありがとう」、MCの中でも「みんなへ」を前にメンバーを代表してUが口にしたこの言葉はとりわけ印象的だった。“in your tour”というツアータイトルは、コロナ禍でなかなか会えなかった期間もずっとTHE BEAT GARDENを心の中に置いてくれていた、たくさんの“あなた”にありがとうを届けたいという気持ちから付けられたのだという。さらには“your”と“tour”の中にある“our”に掛けて、みんなで一緒に作る“私たちの”ツアーにしたいという願いも。この3ヵ月間がまさしくそうしたツアーだったことをUの言葉は物語っている。そして、ここからの未来もそんなふうにして“あなた”と彼らで“私たちの”ものにしていくのだろう。それが楽しみでなくて、なんと言おうか。

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文・本間夕子
写真・森好弘