庭宴歌謡祭オフィシャルライブレポート

2022.09.30



 大切な人たちに囲まれた、心の底からくつろげる場所。9月17日、東京・duo MUSIC EXCHANGEにて開催されたTHE BEAT GARDEN初のファンクラブ限定ライブ“庭宴歌謡祭”は、彼らの立ち上げたファンクラブ「ウラ庭」が3人にとっても、また、そこに集ったTHE BEAT GARDENファン、すなわちメンバーが親愛を込めてBeemerと呼ぶ一人ひとりにとっても、まさにそうした場所であることをありありと実感できるなんとも温かなイベントだった。場内を満たす終始リラックスした空気も、気の置けない仲間同士だからこそ醸される朗らかな一体感も、ファンクラブ限定ライブならではのスペシャルディだろう。これほどにも柔らかく、かつ飾らない表情でステージに立つ彼らを見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 当然ながら、リラックス=手抜きではまったくない。逆に心許せる大切な仲間にこそ最高の自分たちを観てほしい、全力以上の全力で自分たちの音楽を届けるんだという意気込みはオープニングナンバーの「WELCOME TO THE NEW WORLD」からいつにも増して伝わってくる。登場するなり客席を丸ごと包み込まんばかりのスケール感で放たれる3人のハーモニー。Uは中央に設られた台へと駆け上がり、REIとMASATOは早速ステージの端から端へダイナミックに動き、来てくれた全員の顔を確かめるようにして歌声を手渡していく。未だ収束しない新型コロナウイルスの感染予防対策のため、客席ではマスク着用が義務付けられ、歓声や合唱などの発声は禁じられている状況ではありつつも、リズミカルなハンドクラップや、“♪Hey! Ho!”のパートでは声を出す代わりに大きく腕を左右に振ってメンバーに応えるなど、ステージと客席との息の合った掛け合いも実に美しく、ライブとはその場にいる一人ひとりの気持ちと行動が作り上げるものなのだと改めて知らされた。のっけから生まれた強靭なグルーブにメンバーのパフォーマンスもいっそう伸びやかになっていくのが目に見えてわかる。アッパーなムードをさらに加速させたのは「One hundred」だ。興奮にさらに拍車をかける四つ打ちのリズムトラック、グッと大人びたロックテイストのサウンドとアグレッシブな歌にフロアの熱は上昇の一途。サポートDJ・kowta2によるスクラッチプレイも狂騒をさらに煽る。続く「Konayuki」の流麗かつエモーショナルなボーカルワーク、青く染まったステージにはミラーボールの光が雪のごとく舞い散って、観る者の胸にひときわ切なさを募らせた。

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 “庭宴歌謡祭”の開催に先駆けて特設サイトではファンクラブ会員のリクエストを募っており、それらも反映されたセットリストには出だしからかなりコアな楽曲が並んでいたが、加えてBeemerを歓喜させたのはTHE BEAT GARDENの十八番とも呼ぶべきマッシュアップではないだろうか。2021年12月に行われたワンマンライブ“THE NEST 2021”でも披露され、その卓越した手腕を見せつけた彼らだったが、今回はさらにアップデート。「SLY」「Alive」「Morning Glory」といった自身の楽曲と、Saucy Dog、Tani Yuuki、マカロニえんぴつなど彼らが好きなアーティストたちの楽曲をなんら違和感なく織り交ぜ、ひとつの音楽作品へと仕立て上げてゆく手腕にまたしても目をみはらされてしまった。特に後半、SEKAI NO OWARI「Habit」の一節からケツメイシ「夏の思い出」のワンフレーズを経由してTHE BEAT GARDEN「Sky Drive」で締めるかと思いきや、「Alive」を再び挟んでの「Sky Drive」に着地という妙技を繰り出してくるのだからたまらない。センスや技術も然ることながら、歌と音楽、そしてそれらを生み出したアーティストに対する並ならない愛情とリスペクトがなければ絶対に成立しないこのマッシュアップ。彼らが大事にしているものをこうしてお裾分けしてもらえるのは、やはりとても嬉しい。

「ずっとファンクラブイベントをやりたくて、それが僕たちの目標だったんですけど、みんなのおかげでようやく叶えることができました!」

 MCコーナーでそう声を弾ませたのはREIだ。「ウラ庭」設立から9ヵ月、数々のコンテンツを精力的に発信してきた彼らがいちばん今日という日を楽しみにしていたのかもしれない。「僕、思ったんですよ」と切り出すと、「ファンクラブに入ってくれてるってことは“内の内”ですよね。“内の内”ってことはみんな僕らが大好きで、僕らもみんなが大好き。てことは今日は成功間違いなし!」と独自の三段論法を展開するREIに客席は大喜び。“内の内”という、おそらく“身内”を最上級に表現したのだろう、これまた独特な言い回しはUとMASATOのツボにも入ったらしく、場をほっこりと和ませた。MASATOはMASATOで9月15日に生配信した初のTikTokライブを振り返り、「配信でのライブって対面じゃないじゃない? だから、お客さんを想像するわけですよ。まったく同じ顔ぶれ!」と自身が思い描いた客席が今日、そのまま目の前に広がっていることを嬉しそうに報告。さらには「TikTokのライブは緊張したんですけど、今日はプレッシャーから解き放たれてすごく楽しい。珍しくノー緊張です」と笑顔で告白も。「Start Over」の大ヒットを受けて連日、さまざまな現場に引っ張りだことなっている彼ら。喜びも充実感も大きい半面、これまで以上の緊張にさらされる場面も倍増しただろう。ゆえにこうして気心知れたBeemerと過ごすこの“庭宴歌謡祭”は何よりかけがえのない時間に違いなかった。「でも緊張を感じているのは僕らだけじゃなく、見守ってくれているみんなもそうでしょ?」と気遣うU。「だから今日はお互いに心を預けて、リラックスして楽しんで行ってください」と呼びかけると場内は盛大な拍手が溢れた。

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 バラードを聴いてください、と歌われたのは2016年リリースの1stミニアルバム『Air』に収録されている「未来」だった。「この曲をみんなの目の前で歌うのは本当に久しぶり」とはUの言葉だが、本当に何年ぶりだろう。そんな楽曲も聴けてしまうのがファンクラブ限定ライブの醍醐味であり、しかも音源とは歌の割り振りも変えた形で届けられたのだから僥倖この上ない。別れの歌ではありながらも、歌詞に綴られた“君”への想い、“君”との未来を願う気持ちが、彼らのBeemerへの気持ちとも重なるようで、思わず目頭が熱くなる。その後、「遠距離恋愛」から「The Freedom」、静から動への鮮やかな変遷を経て「マリッジソング」で本編は幕を閉じたが、もちろんこれで終わる“庭宴歌謡祭”ではない。むしろ、ここからが本番と言うべきだろうか。

 ステージにはFM愛知で番組パーソナリティを務める重田優平氏が登壇。THE BEAT GARDENがゲスト出演したのをきっかけに親交を深め、FM愛知のイベントにTHE BEAT GARDENが出演したり、THE BEAT GARDENのオンラインライブにて重田氏が影アナを務めるなどもしているという。そんな重田氏を司会進行にスタートしたのはゲームコーナーだ。用意された3種類のゲームに3人が挑んで得点を競い、もっとも点数の低いメンバーには罰ゲームが課される、なかなかの真剣勝負。「どっちが本物でしょう?ゲーム」では、二つの似た名言が出題され、片方が日本を代表する詩人である相田みつを、もう片方がMASATOの父のものであると明かされて場内が騒然とする一幕も。実の息子であるMASATOを含め、まさかの全員不正解。だが、接戦を制したのは「みんなのハートを奪え! THE BEAT GARDENプレゼン対決」にて出されたお題“パスタ”“デートスポット”の両方で1位を獲得したMASATOだった。結局、罰ゲームはUに決定! 激痛で評判の足ツボマッサージを受けながらファンに感謝を述べるというのがそのミッションであるらしい。その模様は後日、「ウラ庭」サイト内で公開されるそうなので乞うご期待。Uいわく「ラグビーをやってたから痛みには強いよ。なんの痛みも感じずに、みなさんに感謝を伝えさせてもらいます」とのこと。さて、その結果はいかに。

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 この日、Beemerをもっとも驚喜させたのはやはりスペシャルゲスト、PEEK A BOO!!!の登場だろう。もはや説明するまでもないが、PEEK A BOO!!!とはTHE BEAT GARDENの前身グループであり、大阪での結成と同時に3人に上京を決意させた、すべての始まりと言っていい。レザー感が前面に押し出された衣装を纏い、Uはサングラス、MASATOは頭と左手首にバンダナ、REIは二の腕が剥き出しというイカついスタイルで現れたPEEK A BOO!!!、曲は彼らの結成のきっかけとなったという「Sexy Woman」だ。その出で立ちも、時代を感じさせるサウンドメイクも現在のTHE BEAT GARDENからはちょっと想像がつかないが、ほとばしる若さと勢いはたしかに図抜けている。このあとのMCで3人が明かしたところによれば衣装も楽曲のアレンジもほぼ当時のままらしい。言ってしまえば、初のファンクラブイベントを盛り上げる飛び道具的ファンサービスなのだろうが、初期衝動と情熱は今なお色褪せず彼らのなかに息づいていることがダイレクトに伝わってきて、思いがけず心が弾んだ。

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「冒頭でも話したけど、最近、いろんな舞台に立たせてもらっていて。嘘みたいだって言ったらホントそうなんだけど、でも嘘みたいに“立てるんだ”って信じてやってきたんだよね。10年前から一歩一歩、積み重ねて今があって……だからTHE BEAT GARDENが大きくなったときにみんなも嬉しいと思ってくれたら、僕らもそのぶん本当に嬉しい。でも、どれだけ聴いてくれる人の数が増えても、今日みたいに目の前のあなたにこれからも一生懸命、音楽を書いて歌っていくから。必要としてくれているあなたにこそもっと深く聴いてもらえるように、ちゃんとずっと必要としてもらえるように」

 終盤に差し掛かったステージから客席に向かってUははっきりとそう約束した。もちろんREIもMASATOも同じ気持ちでいるはずだ。そうして「今日のために書いたと言っても過言ではないこの歌を歌わせてください」と告げて披露された「みんなへ」のなんと沁みることか。“♪泣いて笑って/怒って許して/ずっとずっと/いつまでも”、そんな関係性を信じられる今この瞬間がとてつもなく愛しい。9月23日放送の『ミュージックステーション』4時間スペシャルへの出演決定を生報告して歌い上げた「Start Over」の、どこまでもタフな躍動感。終わらない未来を目指して前進を誓う「Never End」が宿したまばゆいまでの希望。“庭宴歌謡祭”を締めくくるのにこんなにもふさわしい2曲もないだろう。入れ替わり立ち替わりのフォーメーションでステージ狭しと駆け回る3人の笑顔と、一緒になって跳ね踊っては高く腕を突き上げるBeemerの笑顔が混ざり合い、はじける。もはや最高という言葉しか浮かばなかった。

 終演後には、帰路につくBeemerを会場出口でメンバーが揃ってお見送りするというサプライズも。この先、どれだけ環境や状況が変化しようとも結ばれた絆はきっと変わらない。そう確信した夜でもあった。

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文・本間夕子